エレベーターで軽く肩が触れた瞬間、相手より先に「ごめんなさい!」
──そんな経験、ありませんか?
こうした「瞬間謝罪」、実はあなたの優しさから来ているわけじゃないかもしれません。
もしかすると、子どもの頃に身につけた、ちょっと切ない「生き残り戦略」の名残りかも。
このコラムでは、あなたがなぜつい謝ってしまうのかを無条件反応/条件反応をヒントそっと紐解いていきます。
▼「無条件反応/条件反応」について、詳しくはこちら▼
そして、今日からできる「3秒間の沈黙」という簡単なトレーニングで、そのクセを手放すヒントをお伝えします。
心穏やかな眠りにつく前に、あなたの心にそっと寄り添う時間となりますように。
1.どうして無意識に謝ってしまうの?
「気づいたら “ごめん” が口から出ている」
――その反射的な言葉は、ほとんどの場合、あなたが小さかった頃に学んだ「安全を確保する方法」がもとになっています。
これから、その理由を3つの視点から掘り下げていきましょう。
1−1. 「怒られる前に謝れば助かる!」――「嫌なことを避ける」脳の学習
1.きっかけ(無条件刺激)
両親の大きな声や怖い顔など
2.子どもの反応(無条件反応)
身体がドキドキしたり、固まったり、逃げたくなったり…
「危ない!」と本能的に感じる。心拍数↑・筋肉緊張。
3.脳の学習(条件づけ)
そこで試しに「ごめんなさい!」と言ったら、叱られるのが止まった。
脳はこれを「怒りを止めるスイッチ」だと学習(*負の強化)。
4.定着(条件反応)
次からは眉間のシワ=危険信号を読み取った瞬間に「ごめん」が発動。
これが数百回繰り返されると0.3秒前後で「ごめん」が口から出てしまうほど、体にしみつく。
▼この「無条件反応」や、経験によって身につく「条件反応」について、もっと詳しく知りたい方は、こちらの記事もご覧ください▼
🔍豆知識
“*負の強化”は「嫌な刺激が消えることで行動が強化される」オペラント条件づけの一種。スキナー箱のネズミと同じメカニズムです。
1−2. 家のルールと“良い子スクリプト”
- 「人に迷惑をかけちゃダメ」
- 「周りの空気を読みなさい」
- 「先に謝るのが礼儀だ」
こんな言葉は、叱られなくても子どもの心にじんわりと染み込んでいきます。まるで「いい子でいるための台本(スクリプト)」みたいに。
そうすると、大人になって周りの環境が変わっても、この心の台本は静かに動き続けています。
「相手が怒る前に謝っておけば、私はいい子でいられる!」という思い込みがなかなか消えません。
それが、つい謝ってしまう原因になっているのです。
2. 「早く謝る=優しい」ではない理由
「すぐに謝れる人って、思いやりがあるんだな」と、あなたはそう感じているかもしれません。
でも、時にその速すぎる「ごめん」は、あなたの心の大切な光、自己肯定感をそっと隠してしまうブレーキになることがあります。
- なんでも自分のせいにしがちになる:
- 小さなことでも「私が悪かったんだ」と思い込みやすくなる
- 相手の顔色をうかがってクタクタになる:
- 「他人の機嫌=自分の安全」という状態が続いて、心が疲れてしまう
- 本音で話せなくなる:
- 謝ることで、本当の気持ちを伝えたり、じっくり話し合ったりするチャンスを逃してしまい、人間関係が表面的なものになってしまうことも
4. 反射の鎖をゆるめる 「3秒沈黙」トレーニング
では、この心に深く刻まれた「瞬間謝罪」のクセを、どうしたら手放せるのでしょうか? シンプルなステップでできる「3秒沈黙」トレーニングを紹介します。
💡やり方はとっても簡単
- 呼吸: 鼻からゆっくり息を吸って、口からフーッと吐く深呼吸を1回
- これで身体の緊張がほぐれて、反射的に謝ってしまうスピードがゆっくりに
- 観察: 相手の目をじっと見て、表情や声のトーンを落ち着いて観察
- 「今、本当に謝る必要があるのかな?」と、冷静に状況を判断できるように
- 選択:謝る/共感を示す/質問するなど
- 3つの選択肢を持っておくことで、自動反射を再学習
4-1. よくある Q&A
Q | A |
---|---|
沈黙が怖い…3秒って実際にはすごく長く感じるんじゃない? | A確かに最初はそう感じるかもしれません。 でも、実際に時間を測ってみると、3秒はあっという間です。 何度かタイマーで体感をつかむと、怖さが薄れてきますよ。 |
黙っていると、相手に「感じ悪い」って思われない? | 相手の目を見て軽くうなずいたりするだけでも、「話を聞いていますよ」というサイン。 言葉がなくても、こんな風に態度で示すことで、関係は保てます。 |
家族相手だと難しそう… | まずはお店の人や友人など、“心理的距離がある相手”で練習始めてみましょう。 少しずつ慣れてきたら、身近な人にも試してみてください。 |
5. まとめ ―― “瞬間謝罪” ループを抜け出すチェックリスト
今日のコラムを読んで、「よし、やってみようかな」と思ったら、このチェックリストを試してみてください。
✅謝る前に、まずは深呼吸を1回
✅「相手は本当に怒っている?」と、状況を冷静に確認
✅謝る以外の選択肢を3つストック(質問/ユーモア/感謝)
✅週末に「この練習、うまくいったぞ!」という成功体験をメモして、自分を褒めてあげる
「このコラム、いいな」「3秒トレーニング、やってみようかな」と少しでも思っていただけたら、コメントやSNSでのシェア、フォローなどしていただけると嬉しいです💡
今夜も、心が穏やかな眠りにつけますように。おやすみなさい。
【参考文献】
・Chasson, G. (2024). Sorry, Not Sorry, but We Might Be Apologizing Too Much. Psychology Today
・Karson, M. (2016). 4 Parts of a Real Apology. Psychology Today
・Lobel, D. S. (2024). Frequent Apology as a Symptom of Childhood Parental Trauma. Psychology Today
・Wichita State University, Reinforcement (Operant Conditioning)
・Graybiel, A. 他 (2013). Exploring the Brain’s Relationship to Habits. NSF News
・Millette, D. (2023). Self-Control, the Brain and How the Prefrontal Cortex Regulates Impulses. Brainz Magazine
・Bandura, A. (2001). Social cognitive theory: An agentic perspective. Annual Review of Psychology, 52, 1–26.
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